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蝉が鳴いていた。
かすかな時間のみ地上に出る事を許された
その密やかな生涯を謳歌するかの様に
この世に生まれ出た己の存在意義を確かめるかの様に
受け継いだ命を意味のあるものにするかのように
蝉は全身全霊で鳴き続けていた。
そんな大合唱の中
夏休みの近づく北高の体育館では
全校集会が行なわれていた。
田中一馬の告別式の知らせと
その儚い生涯を悼む数々の言葉
そして
より一層の安全を生徒に促す為の集会だ。
一馬が事故を起こしたその朝も
こんな風に集会が行なわれた。
あの日
事故のあったあの日以来
拓哉は後悔し続けていた。
もし…
もしも自分があの日普通に登校していれば
一馬は事故なんかに遭わなかったのではないか?
そんなまったく脈絡のない
関係性すら結びつけたくなる程
拓哉は苦しんでいた。
事故以来、拓哉は毎朝定時に学校へ通っている。
普通ならば不登校になっても
おかしくないはずの心境
しかし
拓哉は出席し続けた。
やり場のない怒りを自分の中に押し込め
あえて引きこもる己の心ををいじめぬく事で
一馬を失った苦しみから
逃がれようとしていたのかもしれない。
拓哉は何も語らない。
それだけに拓哉のとった行動は
周りにあらぬ誤解を与えた。
『血も涙もない』
そう囁く者もいたが
拓哉は弁解もせず
一切己の心情を露わにする事はなかった。
やがて一週間が経った。
少しずつ北高にも日常が戻りだし
学期末の試験が始まった頃から
拓哉は妙な感覚に捕らわれるようになっていた。
授業や試験の最中、瞬間的に意識を失う事があり
ふと気がつくと
テスト用紙やノートに
変な文字を書いていたりする。
眠気に襲われた時
ミミズの這った様な線を書く事あるが
それとは明らかに違う。
第一、睡眠はしっかりとってるし
己が書いたはずのものは
明らかにそういうデタラメなものではない。
文字としてこそはっきり形をなしていないが
規則性のある文字配列とひと文字ごとの大きさ
間違いなくこれは文字だ。
最初はあまり気にしていなかったが
ある事をきっかけに
拓哉は己の身に起こる事態を
異常と感じる事となる。
期末テストの採点が終わり
担任から答案用紙を受け取っていたその時だった
受け取った答案用紙をひと目みた拓哉は
思わず声をあげた
『うぉっ!?』
手にした答案用紙いっぱいにぶちまけられた
『血液』
真ん中には血糊でべったりと
しかしはっきりと書かれた
『タスケテ』
の文字。
思わず手から答案用紙を払い
後ろの机に蹴つまづく拓哉
『どうしたっ!?佐伯っ!!』
尋常ならざる拓哉の反応に
担任は驚き声をあげた。
『ち…』
言葉にならぬ息を飲み込み
拓哉はもう一度答案用紙を見つめる
答案用紙に描かれた
真っ赤な丸の数々
真ん中に書き殴られた89点の点数
担任が答案用紙を拾い上げ
今一度拓哉に手渡す
『佐伯、今回の期末は結構難しかったが
よくこの点を維持できたな。
驚かなくてもこれは見間違いじゃないぞ』
気遣うように笑顔を作る担任
しかし拓哉は今はっきりと気付いた
何か
誰かが何かを俺に伝えたがっている、と。
そうやってしばし佇む拓哉を
教室の隅でじっと見つめる
ひとりの女生徒がいた。
片岡美優
彼女もまた
何かに気付いたようであった…
続く
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